鎌倉へ移住する以前に住んでいた自邸です。
建築可能な敷地面積がおよそ9坪の狭小住宅。
木造密集地の旗竿敷地で、敷地の周りはお隣さんの家の壁しか見えません。
そこに、【お茶室のような空間】をつくりたい。
それが設計のコンセプトでした。
限られた部屋に、限られた開口部によって、自然や生命を感じられるような場所、
意識したことはたくさんありますが、主に以下の3つのポイントで、そんな場所を目指しました。
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①外壁の窓を排し、空からの光だけに絞る
②床・壁・天井の素材を検証する
③寸法にメリハリをつける
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①外壁の窓を排し、空からの光だけに絞る
毎日空を感じて生活していました。
晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、いつも空と繋がっていました。
また、階層ごとに光のグラデーションができ、繊細な光から眩しいほどの光まで、幅広い光と同居していました。
閉ざされた空間は失敗すると閉塞感しか生みませんが、
きちんと設計すれば、周囲環境からの影響を感じなくなり、それは安心感にも繋がります。
そして、狙いは大成功!一日中家にいる妻からも好評をいただきました。
②床・壁・天井の素材を検証する
居住スペースは漆喰塗りとしました。
狭小住宅では、壁や天井との距離が近くなります。
手触りや光の反射率、吸湿性、蓄熱性など、居住性に大きな影響を与えます。
漆喰は綺麗に光を反射させるので、一日中空の色が楽しめます。
朝は爽やかなオレンジ色に部屋が染まり、昼は直射光の光の線、夕暮れ時はドラマチックで、橙色から深い青色、やがて暗くなります。
リビングシアターを直接漆喰壁に投影させると、画面の色が部屋中に反映して、真っ赤な映像では部屋が真っ赤に、青なら青になります。没頭感半端ないです。
狭小住宅では、狭い分、高単価の素材でも、金額的には大きな差になりにくいので、自然素材を選びたいところです。
③寸法にメリハリをつける
狭小住宅の設計の醍醐味を感じられる部分、それは寸法へのこだわり。
できる限り隣り合う空間が重なり合うように、併用するスペースを設けるのはもちろんですが、
通路や収納、水廻りなどの非居室部分の寸法は、極限的に小さくして、限界点を探していきます。
生活の優先順位と寸法が密接にリンクしていて、ミリ単位でも間違えると命取りです。
数字に緊張感が宿ります。
狭小地の設計を多く手がけてきた集大成としての自邸。
たくさんのこだわりが細部に宿っています。
当初、家族三人用に設計した家も、家族が五人に増えたことで、手放すことにしました。
寂しい想いと同時に、この住まいを気に入って住み継いでくれる人がいることの悦びを感じずにはいられません。