Atelier Report

2018.07.06 研修レポート

A・レーモンド 夏の家

軽井沢タリアセンにペンネ美術館があります。

アントニン・レーモンドの「夏の家」を移築したものです。

レーモンドさんは、1888年、チェコのボヘミア地方にあるクラドノで生まれました。近代建築の三大巨匠のひとり、フランク・ロイド・ライトに帝国ホテルの設計の助手として誘われて来日します。

それ以前に、ライトの許で一年間働いたことがあって、透視図の腕をかわれたそうです。一次大戦中にはスパイの経験もあるそうです。

ライトは帝国ホテルの費用のかかり過ぎが原因で日本を去りますが、レーモンドさんは日本に残ります。

第二次大戦中に一度日本を離れますが、戦前と戦後、合わせて44年間、滞日した後、ペンシルベニア州にある自邸に戻って生涯を閉じました。

レーモンドさんは日本建築について、評論まとめていますが、これがまた素晴らしい内容です。

これを読むと、レーモンドさんが、どれほど日本の研究をして住まいを作り続けたかが滲むように感じ取れます。

思わずレーモンドさんと呼んでしまう気持ちになってしまいます。

その評論の中にとてもハッとさせられる一文があります。

「最高の居心地は家の中にあるのではない」…と。

居心地というのは住まいの設計者にとって永遠の追求テーマだと思います。住空間に如何にして居心地を見出すのか、ということをずーっと考え続けてきて…「家の中にはないよ」と言われると、

え…ほんと??じゃぁどこにあるの?? となります。

 

僕なりの答えは、日本人らしさの中にあるものなんだと、解釈しました。

自然や季節に対する感受性とそれを生活表現に取り入れてきた日本人。

例えば、人をおもてなしする際に涼しい掛け軸や名水を用意する表現の仕方もその一つだと思います。

自然や人を介して自分自身とも対話する禅にも通ずる精神性。

その延長線上に洗練された居心地があるのだと思います。

 

実は今回、「軽井沢で生ハム作り」という新聞記事を読んで、急に思い立った軽井沢行き。

結構軽い気持ちで訪れた軽井沢でしたが、たくさんの発見がありました。そのうちのひとつが、レーモンドさんでした。

 

 

 

夏の家(ペンネ美術館)は、内部は写真撮影禁止ですが、受付の人に言うと、冊子をもらえます。

表紙。

昔の写真。現在は雨戸が閉まっていて、ペンネの絵が所狭しと飾ってあります。

残念な想いは閉まっておいて建物が現存していることに感謝。

古い写真だけど、スロープを上った二階が見えます。

あそこで若き日の吉村順三、前川國男が修行していたと思うと…心が熱くなります。

 

冊子には載っていませんが、ちなみに、これ。

夏の家に、めちゃくちゃそっくりなスケッチ。

コルビュジェの「エラズリス邸計画」のスケッチです。

夏の家は、コルビュジェのオマージュだったのですね。

夏の家の発表時、レーモンドは「主室はコルビジエの南米山荘計画に依る」と和英両文で書かれていましたが、注釈に目がいかなかったコルビュジェから抗議文が来ました。

結局、誤解は解けて、コルビュジェ自身の作品集においても、夏の家の写真とともに、立派な考えは出会うものだと言えそうだ、と称賛しています。

魅力的な建築に出会って時間をおくと、空間体験と昔の写真が記憶の中で混じり合って熟成され、まるで当時の建物をタイムスリップして見に行ってきた記憶にすり替わっていることがあります。

軽井沢の自然との融合、静かな時間の流れ、夏合宿の所員たちの活気など。

いつまででも居たい場所でした。

軽井沢タリアセンには他にも著名な建築があるので、また機会を改めて見に行きます。

今回の軽井沢では、他にも貴重な体験をしましたが、それは次回の研修レポートでご紹介しますね。

軽井沢の腸詰屋さんで生ハム作りのときの写真。生ハムについてもまた今度ご紹介しますね。