自邸に土壁を使いたかった理由の一つに、
「発酵」があります。
土壁の土は、粘土に藁を混ぜ、
時間をかけて発酵させたものです。
味噌や醤油づくりを通して、
微生物の働きによって環境がゆっくりと変化していく過程に、
以前から強い関心がありました。
発酵は、単に食べ物をつくるための技術ではなく、
時間の中で物質が変わり続けていく現象です。
そしてその変化は、
匂いや空気の質として、私たちの身体にも伝わってきます。
皮膚の上にも常在菌がいて、
私たちは常に微生物とともに生きています。
目には見えませんが、
身体のまわりには、常に小さな環境が存在しています。
そう考えたとき、
住まいの中にも、発酵という現象を取り入れたいと思いました。
食べるための発酵だけでなく、
空間そのものが、ゆっくりと変化していくような環境。
時間とともに、空気の質が育っていくような住まい。
その一つのかたちが、土壁でした。
ただし、土壁の発酵は、
味噌や醤油のように長く続いていくものではありません。
施工直後の湿った状態では、
藁などの有機物に微生物が働き、発酵が起こりますが、
乾燥が進むと、その活動は次第に落ち着いていきます。
その後に現れてくるのは、
別の時間の変化です。
土に含まれる鉄分などが、
水分とともにゆっくりと酸化し、
色や質感に、少しずつ変化が現れてきます。
土壁は、
発酵の時間を経て、
その後もまた別の時間の中で、変化し続けていく素材です。